ムルシリ2世の「第一」ペスト祈祷(CTH 378.1)
【引用形式】大亦菜々恵、山本孟、「ムルシリ2世の「第一」ペスト祈祷(CTH 378.1)」、https://hittiteanejphy.com/texts/cth-378-1.php (INTR 2020-06-30)
【粘土板情報】 KUB 14.14 + (詳細)
【主要参考文献】
- I. Singer (2002) Hittite Prayers (Writings from the Ancient World Society of Biblical Literature, Vol. 11) – Atlanta: Georgia
- E. Rieken et al. (ed.), hethiter.net/: CTH 378.1 (INTR 2016-01-18)(リンク)
【文責】大亦菜々恵(researchmap)、山本孟(researchmap)
本和訳はHethitologie Portal Mainz(以下HPM)の翻字(ヒッタイト語原文)、独語翻訳に対応しており、通し番号は粘土板における行ではなく、冒頭から数えて何文目かを表しています。節ごとに対応するHPMでの翻字翻訳のリンクを貼っているため、翻字を確認しながら読むことができます。
[ ]:粘土板が破損している部分
第1節(HPM § 1)
- 神々よ、私の主人たちよ、全ての男性神よ、全ての女神よ、ハッティ国の神々よ、全ての宣誓の男性神よ、全ての宣誓の女神よ、全ての太古の男性神よ、全ての(太古の)女神よ、その日、誓いの証人として集会に呼び出された神々よ、山々よ、河よ、泉よ、冥界への入り口よ
- 今、あなた方の神官であり、あなた方の僕である私ムルシリは申し立てを行いました。
- 私があなた方に申し立てる事柄について、
- 神々よ、私の主人達よ、私の言葉を聞いてください。
第2節(HPM § 2)
- 神々よ、私の主人たちよ、ハッティ国の中では疫病が発生しました。
- ハッティ国は疫病に悩まされました。
- 大変な苦境に立たされました。
- これが20年目です。
- 多くの人々がハッティ国で亡くなり続けるのは。
- 私にとって、トゥドゥハリヤの息子小トゥドゥハリヤの事件は重大なことでした。
- 私は神託を通じて神々にも(それを)問いました。
- 小トゥドゥハリヤの事件は神々によって確かめられました。
- 小トゥドゥハリヤはハッティ国の主人であったため、
- 彼に対しては、ハットゥサの王子達、貴人達、千人隊長、高官、歩兵隊と戦車隊の全ての者が誓いを立てていました。
- 私の父もまた彼に対して誓いを立てていました。
第3節(HPM § 3)
- しかしその後、私の父はトゥドゥハリヤを脅かしました。
- ハットゥサの国、王子達、貴人達、千人隊長、高官達は皆私の父につきました。
- 彼らは彼らの主人であるトゥドゥハリヤの誓いに背き、
- 彼を殺しました。
- さらに[ … である]彼の兄弟たち、[ …(人名が欠損) ]とピルワについては、
- 捕らえました。
- そして彼ら(兄弟たち)をアラシヤ(キプロス)へ送りました。
- トゥドゥハリヤは彼ら(謀反人達)の主人であったため、
- 彼らは彼(トゥドゥハリヤ)に誓いを立てた僕でありました。
- 彼らは私の主人であるあなた方に対して神々の誓いを破りました。
- そしてトゥドゥハリヤを殺しました。
第4節(HPM § 4)
- あなた方、私の主人で神々は私の父を守りました。
- あなた方は[ … ]に立っていました。
- ハットゥサが敵から[ … ]ことに関してですが、
- 敵はハッティ国の境界の地を奪いました。
- 彼は[ … ]を打ちました。
- そして彼らを殺しました。
- そして彼はハッティ国の[ … ]をも[取]りました。
- しかし、彼はその境界の地を彼らから取り上げました。
- そして彼らは再び[ … ]
- さらに彼はその王権において他の周辺諸国をも[取りました]。
- 彼はハッティ国を存続させました。
- 彼は領土をこちら側もあちら側も[ … (動詞が欠損)]。
- 彼の下で全ハッティ国は順調でありました。
- 彼の下では[ … ]と牛、羊が増えました。
- [ …(関係節の動詞などの欠損) ]敵国からの捕囚民たちも
- 存えました。
- いかなるものも滅びることはありませんでした。
- その後、[あなた方]神々は[ … ]。
- [ … ]ついに今、我が父に対して、その小トゥドハリヤの事件の報復をしました。
- 私の父はトゥドゥハリヤの血(=殺人)ゆえに[死にました]。
- 従っていた王子達、貴人達、千人隊長、高官達は、
- その問題ゆえに死にました。
- その問題はハッティ国にも及びました。
- ハッティ国はその問題ゆえに滅び始めています。
- ハッティ国はこれまで[ … ]。
- しかし今、疫病はさらに激しさを増してきています。
- ハッティ国は[ … ]疫病に悩まされています。
- そして衰えています。
- しかし、私、あなた方の僕ムルシリは[私の心の]動揺を[克]服できません。
- 私の体の苦悩を[克服でき]ません。
第5節(HPM § 5)
- 彼が[ istaraezzi: 語義不明]する私の主人である神々、
- 宣誓のための集会で証人台へと呼び出されたあなた方神々におかれましては、
- 当時ハットゥサが皆誓いを立てましたが、
- 彼らは[ …(動詞欠損)]。
- しかし、のちに彼らが彼らの誓いの主人を[ … (動詞欠損)]、
- 私の主人であるあなた方神々がその裁判において[ …(動詞欠損)]しない限り、
- あなた方は[もう二]度とその事件に復[讐する]ことは決してないでしょう。
- [ … ]達、私の主人であるあなた方神々ははるかに優って[(います?)]。
第6節(HPM § 6)
- しかし、彼らは[ … ]罪を犯し[ … ]、
- 誓いを[ …(関係節の動詞欠損) ]である私の主人であるあなた方神々については、
- 彼らは彼らの[ … ]を殺しました。
- その日の[ … ]、
- 彼らはすでに死にました。
- 彼らは[ … ]しました。
- しかし家から[ … ]。
第7節(HPM § 7′)
- そしてハッティの国でも[ … さらに]人々が死んでいます。
- 彼は[ … ]罪を犯しています。
- そしてそこでは[ … ]
- しかし、彼の[ … ]
- 私の父が[ … ]ことに関してですが、
- 私の父の[ … ]
- 私は[ … ]告白しました。
- 私の父がトゥドゥハリヤを[ … ]したことについてですが、
- 私の父はのちに(流された)血のために儀礼を[とり行いました]。
- しかしハットゥサは何も[していません]。
- 一方、私もそれから後に[血のための儀礼を]執り行いました。
- しかし、国は何もしていません。
- 彼らは国の[ … ]何もして[いないのです]。
第8節(HPM § 8′)
- しかしハッティ国が今、疫病にひどく苦しんでいることについてですが、
- ハッティの国は滅びつつあります。
- そしてトゥドゥハリヤの事件は重大なことになりました。
- そのことは神々によって私にも確かめられました。
- そして私は[さらに]神託を通じて問いかけました。
- 私の主人であるあなた方とあなた方の神殿のために、この国の疫病に対する誓いが定まりました。
- 私の主人であるあなた方神々の前で、誓いの儀礼が取り行われます。
- そしてそれ(誓いを立てたこと)は[ … ]清算されます。
- 私も私の主人であるあなた方神々に国の疫病のため、償いと和解のための犠牲を献上します。
第9節(HPM § 9′)
- 私の主人であるあなた方神々がトゥドゥハリヤの血の復讐をしていることについてですが、
- トゥドゥハリヤを殺した者については、
- 彼らは血の償いをしました。
- そしてさらにその殺人事件はハッティ国をも破壊し尽くしました。
- そしてハッティ国もその事件についてはすでに償いをしました。
- そして今その事件の影響が私に届いたことについてですが、
- 私も私の家と共に補償と献上によって償いを行います。
- 私の主人であるあなた方神々の御心が再び鎮りますように。
- 私の主人である神々よ、再び私に寵愛を授けてください。
- 私はあなた方の元へ参ります。
- 私があなた方にお話しすることに、
- 耳を傾けてください。
- 私は何も悪いことをしていないことに関して、
- 過ちを犯した者達と、
- 悪いことをした者達、
- あの日の者達はもう今はいません。
- 彼らはすでに皆死にました。
- しかし、私の父の事件の影響が私にまで及んでいるので、
- 私は今ここに、私の主人であるあなた方神々に対して、国の疫病のための和解を目的とした犠牲を献上します。
- 私は償いの犠牲を献上します。
- 私はあなた方に和解と償いを目的とした犠牲を献上します。
- 私の主人である神々よ、再び私に寵愛を授けてください。
- 私はあなた方の元へ参ります。
- 疫病がハッティの国を苦しめているので、
- 国は小さくなってしまいました。
- 私の主人であるあなた方神々にパンと酒を捧げていた者達は、
- 疫病によって非常なる苦境に立たされています。
- 疫病は[ … ]。
- 疫病が(今ここに)あります。
- しかし、疫病は終息する兆しがありません。
- 人々は死んでいきます。
- [すでに]数の少ないパンを捧げる人々と献酒をする人々
- 彼らが死に絶えれば、
- 誰もあなた方にいかなるパンも酒も捧げなくなってしまうでしょう。
第10節(HPM § 10′)
- 私の[主人である神々よ]、[ … (関係節の動詞が欠損)]であるパンと酒[ … ]、
- [ … ]
- [私に寵愛を]授けてください。
- 私はあなた方の元へ参ります。
- [ハッティの国から疫]病を追い出してください。
- 数の少ない、このあなた方のためにパンを捧げる人々と献酒をする人々、
- 彼らが さらに苦しめられることがないように。
- 彼らが死ぬことのないように。
- 彼らがあなた方にパンと酒が捧げられますように。
- 私の主人である神々よ、疫病を追い出してください。
- そしてハッティ国でトゥドゥハリヤの[事件]によって生じた悪は何であれ、
- 神々よ、[ … ]追い出してください。
- そしてそれを敵国へと追い出してください。
- そしてハッティ国に対して寵愛を授けてください。
- 国中が再び栄えますように。
- あなた方の神官であり、あなた方の僕である私も、あなた方の元へ参ります。
- 私に寵愛を授けてください。
- 私の心から動揺を追い払ってください。
- 私の体から苦悩を取り去ってください。
第11節(HPM § 11′)
- [第一の書板]完了
- ムルシリ二世がどのように疫病に対する嘆願を行ったか(について)
謝辞
本和訳は、2020年4月〜6月にかけてZoomにて開催された「ムルシリ二世のペスト祈祷文書講読会」を基に作成されました。熱心に参加してくださり、共にディスカッションしてくださった岩本郁人さん、鶴崎智子さん、柳谷さん、ルカ・フィーリアさん、そして匿名の参加者の皆さんに心から感謝の気持ちと御礼を申し上げます。
ヒッタイトに、興味があります。
ですが、勉強の仕方がわかりません。大学も出ていないので今回の記事はとても嬉しかったです。
自分なりに勉強していきたいと思います。
ありがとうございました。